― 0.対蹠(たいせき)antipodisch ―

 

 

 彼は何かに対して苛立ちを感じていた。何なのかは分からない。過ぎ行く日常に、目立った不満があるわけではない。いや、だからこそ彼は苛立っているのかも知れない。漫然とした毎日に、彼は物足りなさを感じていた。

 社会的に見れば、彼は順調な道を歩んでいる方といえるのだろう。比較的偏差値の高い大学を卒業した彼は、それ相応の、つまり比較的良い会社に就職する事が出来た。手取りも悪くはない。仕事が忙しい事もあるとはいえ、それが嫌というわけでもない。だが、彼は満たされないままでいた。休みの日ともなると、彼は当てもなくブラブラするばかりだった。職場の同僚の中にはよく言葉を交わす者も幾人か居るが、彼らを声高に友達と呼べる自信が、彼にはなかった。あくまでも職場でだけの付き合い。休暇まで共に時間を過ごそうとするほどの付き合いではなかった。

 そんな彼にも、夢中になれるものがあった。それは車。とはいえ、ただのんびりと愛車を走らせる事だけが彼の望む所ではない。一般にスポーツカーと称されるカテゴリーに属する車を好む彼が望み見るのは、スピードの彼方。夜の闇が辺りを包み込む時を迎えると彼は愛車を駆り出し、法定速度を遥かに超えたスピードで公道を駆け抜ける。

 所詮は反社会的行為に過ぎない。だが、彼は社会へ抗う為に走るわけではない。極限のスピードの中で、彼らのような人種は何かを垣間見る事が出来る。思い過ごしだと言われてしまえばそれまでの、他人には絶対に価値のないもの。しかし、彼らにとってはそれが何よりも価値のあるものであった。

 それなのに日々の苛立ちは、尊ぶべき筈であるそれの意味すらも危うくしていた。自分は何を求めて走り続けていたのか。今までは分かっている事が当たり前であるかのように、そんな事などは気にもしていなかった。もしかすると、元来考える必要のない事なのかもしれない。それでも、彼はしきりに考えるようになっていた。自らが走る意味を――。

 

 

 彼が再びあの喫茶店を訪れようと思った時の心情は、このようなものだった。そして彼は一人の少女の姿をも思い出していた。大学在学中にアルバイトをしていた喫茶店の経営者夫婦の一人娘で、喫茶店に来て手伝いをしている事も多く、必然的に頻繁に顔を合わせていた。当時、彼女は車に興味を持ち始めていて、そんな彼女に彼は色々と車の事を話してやった。アルバイトを辞めてからも時々メールをやり取りするなどして連絡は取っていたが、顔を合わす事はないままだった。自分が失いかけてるものを、彼女が取り戻してくれるかもしれない――彼はそんな期待をも、少し抱いていた。

 

 

 

 

「敏ちゃーん!久し振りーッ!」

 喫茶店の横の道へ車が停まるや否や、少女が元気良くその方へ駆け出して行って彼を渾名(あだな)で呼んだ。その青年――敏行の事を、その少女は(かつ)てからそう呼んでいた。

「やあ。美由。元気そうだね。」

 そして彼も車を降りると、穏やかながらも嬉しそうに少女の名を呼ぶ。

「元気だよ〜。敏ちゃんも元気そうじゃない。それに、車の方も。」

 そう言うと少女は、彼が乗ってきた車をしげしげと見詰めた。

「ホントに買っちゃったんだね。インプレッサ。しかもワゴンだなんて、こういうのって渋い趣味って言うのかなぁ?」

「いや、単なる物好きだろうね。でも、これが昔っからの僕の夢だったんだよ。ずっとこのGF系のインプレッサワゴンが好きで、免許を取るずっと前から憧れてて、そして遂にその夢が叶ったんだ。納車された日なんて余りにも嬉しくってさ。僕、この歳で泣きそうになっちゃったからね。本当に。」

「分かるよ。その気持ち。私も初めて自分の車のシートに座った時は、本当に感激したもん。」

「お、そうだった。美由も車買ったんだっけ。現行型のロードスターなんて、美由も随分無理してるよね。」

「丁度掘り出し物の新古車があったんだよ。それでも、私の財政力からすればかなり頑張ったけどね。……というか、本当は大分と親の(すね)を齧ってるんだけどね……。」

「ハハ。まぁ、そうだろうなぁ。色々と手を加えたりはしてあるの?」

「ううん。まだまだだよ。セオリー通り、足回りから順に手を加えて行こうとは思ってるんだけどね。所謂ライトチューンってレベルかな。」

「そうかぁ。こうなると、美由のドライビングにも興味が湧いて来るな。僕が此処で働いてた頃は、美由はまだ免許持ってなかったしね。折角なんだから、食事した後に少し走りに出ない? 場所は何処でも良いよ。」

 敏行は単に美由の車やドライビングがどんなものなのかを見てみたいという軽い気持ちで提案した。しかし美由の方は、その提案に対して少し渋るような表情をしながら、深く考え込んでしまった。敏行が訝しげにその様子を覗き込むと、美由は慌てて明るい表情を取り戻して返事をした。

「う、うん。良いよ。じゃあ、私も自分の車を出すね。取って来るから、ちょっと待ってて。」

 そう言い残して、慌しく駐車場の方へと駆けて行った。敏行は呆気に取られるようにして、美由の走り去って行く方を見詰めていた。

 

 

 

 

 二台の車が連れ立ってファミリーレストランの駐車場に入って行く。広くどんな人々にも受け入れられるようにというコンセプトを持つファミリーレストランには、そのコンセプト通り様々な人間が集まる。駐車場に停まっている車も人と同じく多種多様であり、敢えて探さずともその中にはスポーツカーの姿も見つけ出す事が出来る。敏行のインプレッサも美由のロードスターも、ノーマルとの外見上の違いは車高がやや低くなっている事くらいであり、(ほとん)どノーマル然としている。数多く駐車されている車の中で異彩を放つという事もなく、停めてしまえばその光景に溶け込んでしまう。この時の彼らの車は、そのようなものであった。少なくとも当人達は、そう思っていた。

 

 

 案内された席に座りメニューを注文し終えると、二人の話はすぐに盛り上がった。実際に合うのは(およ)そ2年振りであるので、積もる話も多い。他愛もない四方山(よもやま)の話もするが、やはり彼らの共通の話題である車の話の方へ行き易かった。

「敏ちゃんは最近は何処を走る事が多いの?」

「そうだな……今は銚子の方へ出向く事が多いかな。前のレガシィに乗ってた頃は首都高へ行ったりもしてたんだけど、今のインプレッサに変えてからはあんまり行ってないかな。もう少しエンジン周りにもお金掛けたら、また行ってみたいとは思ってるんだけどね。そういえば、美由の方は何処を走ってるのさ?」

「私? 私はバリバリ近所の幕張を走ってるよ。丁度喫茶店の前の道と駅前の道とをグルグル回ったり、千葉港の方へ下ってく道を走ったりね。」

「え? あの辺って走りのスポットだったっけ? 昔ゼロヨンやってたってのは聞いた事があるけど、今はもう居ないのかと思ってたよ。」

「確かに、集まる人数はあんまり多くないけどね。何だか分からないけど、あんまりあの場所は好かないっていう人も居るみたい。逆に随分と気に入ってる人も居るけどね。コースのレイアウトとかで、好き嫌いが分かれるのかな?」

「う〜ん、そういうのもあるのかもしれないね。その場所の持つ雰囲気みたいなものってあるからさ。」

「雰囲気か……。それは分かる気がするよ。」

「そうだろ? 僕も前はあんまり意識した事もなかったけど、最近は何となくそういうのが分かるような気がして来てたんだ。さっき、近頃は銚子の辺りを走ってるって言ったけどさ。実は何だか最近そこの雰囲気と僕はそぐわなくなって来てるような気がしてたんだよね。最初は(たま)には峠も走ってみようかと思って行って、そのまま居着いてたんだけど、どうもこの頃は周りのムードに付いて行けなくなって来てたんだ。」

「そうだね……。自分と気の合わない人達の中に居るのは、誰だって嫌なものだからね。まぁ、自分と気の合う人を見つけるってのも、中々難しい時もあるんだけどね……。」

 言いながら徐々に俯き加減に暗さを見せて行く美由。そして少し間を置いた後、不意に口を突いたように言葉を続けた。

「……会うのは久し振りだから当たり前なのかもしれないけど、敏ちゃん、少し変わったかもね。」

 そう言われて敏行は、驚いたような表情を見せる。

「え? 僕? そうかな。僕は別にそのまんまだと思うけど。」

「何て言うかな。昔は敏ちゃんって単なる車好きって感じでさ。車の事語る時の敏ちゃんってすっごい嬉しそうで、その時は本当に車が好きなんだなって思ってたんだけど、今みたいな話はしなかったと思うんだ。そんな風に、色々と深く考えるようになったって言うかさ……。」

「何だよそれ? 確かに何も考えずに走ってるわけじゃないけど、敢えて深く考えてるってつもりもないけどなぁ。それに、そういう風に思う美由の方こそ変わったんじゃない?あの頃は聞いてた美由の方だって、僕に引けを取らないくらい嬉しそうだったと思うけどな。」

「……そうだね。私は……変わったのかもしれないね。あの頃とは車への思い入れも違えば、周りの状況だって違うしね。そう、私は確かに変わったと思うよ。」

「美由は自分でもそう思ってるんだ。少なくとも僕の目には、そう映ったわけだしね。何処がどうとか具体的にはハッキリ分からなくて、何だか言葉にしかねるところがあるけど。」

「だよね……。」

 美由はやや中途半端に相槌を打った後、美由は少し表情に明るさを戻して立ち上がった。

「ねぇ。少し早いけど、そろそろ走りに行かない? 折角なんだから、幕張を走ろうよ。今の敏ちゃんなら気に入ると思うし。やっぱり、私達みたいな人間は走らなくちゃ……ね。」

 その提案に、敏行の方は少し表情に真剣みを加えて答える。

「……そうだね。そうしようか。」

 そして二人は席を立ち、会計を済ませてから店の外へ出てそれぞれの車へ乗り込むと、夜の(とばり)の落ちた幕張へと向かって行った。

 

 

 

 

 4つの通りを4つの交差点で結んだ四角いコース。うち2辺は幾らか左右に曲がってはいるものの、残り2辺は完全なストレートで、その中でも幕張メッセを望める国際大通は通称駅前ストレートと呼ばれ、1kmを越えるストレートを持つ。これが俗に周回コースと言われる、此処に集う走り屋の多くが好んで走るスポットらしい。因みに、喫茶店は周回コースとして言えば駅前ストレートの向かい側に当たる、公園大通に位置している。

 その場所に着いた途端、敏行は一瞬身震いを感じた気がした。

「え?」

 思わず声を出す。美由のロードスターに先導されて、敏行は再び幕張へと戻って来ていた。喫茶店で働いていたので、暫く訪れていなかったとはいえ敏行は幕張近辺には通じており、今居る場所も見慣れた景色の筈である。それなのに、何故か敏行はその景色に違和感を覚えた。よく知っている筈のその場所が、まるで別の場所のように感じた。

「いや……気のせいだよな……。」

 しかし、すぐにそう言って姿勢を正した。この時間帯の幕張は余り知っているわけではないし、それに少し耳を澄ませば、他にも走り屋が来ているらしく、高鳴るエキゾーストノートの音色が幾つか聞こえる。そういった要素が、自分に違和感を感じさせたのだろう。そう思った。だが、そうやって自分を納得させようとしても、やはり初めに感じた違和感を拭う事は出来なかった。

 

 

「何だか別の場所に来たみたいだよ……。」

 喫茶店から少し北へ行った場所にある空き地へ車を停め、そこに二人は降り立つと、敏行がそう漏らした。

「そんなに違って感じる? 敏ちゃんが行ってたスポットとは、そんなにも此処の雰囲気は違うものなの?」

 呆然としたように立ち尽くす敏行に対して、美由は少し不思議そうな顔をして尋ねた。

「……敏ちゃんが喫茶店(うち)を辞めて少し経ってからだったかな。私が自分の車を持って走り出したのは。その時、偶然誰かから、幕張にも走り屋が集まるって伝え聞いたんだ。初めは私も意外に思ったけどね。だって、幾ら集まるのが夜遅くって言ったって、なんたってあの場所にある喫茶店にしょっちゅう出入りしてる私ですら知らなかったんだもん。それで、それなら一度出向いてみようかなと思って、ただそんな気持ちでこの場所へ来てみたんだ。そして、初めてこの場所へ降り立った時の私の表情は……きっと今の敏ちゃんみたいだったと思うんだ。」

 敏行の横に並んで、幕張新都心のビル群の方を見詰める。幾つかのビルが(まば)らに窓明かりを灯しながら、漆黒の空へと(そび)え立っている。そんな光景を見上げながら、美由は言葉を続けた。

「あの頃。敏ちゃんには車の事沢山教えてもらって、色んな走り屋スポットへも連れて行ってくれて、言ってみれば敏ちゃんは私の車の師匠みたいなものだよね。……私が敏ちゃんに色々教わったように、この場所からも私は色んな事を教えられたような気がしてるんだ。確かに敏ちゃんが言うように、この場所はよく知った所だけど、この時間帯のこの場所は全く別世界と言っても良いと思うんだ。……ううん。私がそれに気付いたのは、自らの手で車を操ってこの場所を走り込んだ時だったかな。そう、初めは気付かなかったんだよ。この場所の雰囲気に。だけど敏ちゃんは……。」

 そこまで言って、美由は隣に並ぶ敏行の姿を見上げる。敏行は先までの美由と同じようにビル群の方を見詰めたまま、美由が言おうとした続きを代弁する。

「だけど僕は、来ただけでそれに気付いた……と。」

 真剣な表情で言う敏行に対して、美由は静かに頷く。それを見て敏行は、少し表情を和らげて言った。

「美由。僕だってこの2年間、何処も走ってなかったわけじゃないんだよ。僕なりに色んな所を走って、それで僕なりに色々と考えてみるようにもなったと思うんだ。まだ僕が喫茶店で働いていた頃は、単に車が好きで走り回ってただけだったようなものだけど、今は僕も何となく分かるようになってきた気がしてるんだ。ただ車で走る事が好きだってだけじゃない。走る事の意味……いつしか僕も、そんなものを探すようになり始めてるみたいなんだよ。」

 言葉を続けて行く内に、微かに浮かんでいた笑みも次第に消えて行った。そして美由も俯くようにして敏行の言葉を聞いていた。やがて少しの間を置いて、美由が何処か弱々しい声で敏行に言った。

「……じゃあ、そろそろ出ようか。私の走りがどれくらいのものか見てもらいたいし、私も自分で運転して敏ちゃんの車と走るのは初めてなわけだしね……。楽しみだよ。」

 最後の一言に、敏行は重々しいものすら感じた。それに呼応するかのように、敏行も表情を険しくする。

「ああ……そうだね……。」

 それだけ言うと敏行はインプレッサに乗り込み、イグニッションキーを回す。続いて美由も同じようにロードスターに乗り込み、エンジンに火を入れる。少し時間を置いた後、美由から先に周回コースへと出て行った。

 

 

 

 

 敏行にコースを覚えてもらう為に、先ずはゆっくりと流しながら周回コースを1周する。そして1周し終える頃になって、美由は敏行のインプレッサをバックミラーから一瞥した。勿論確認するまでもなく、インプレッサは後ろに付けている。美由は視線を戻すと、加速体制に入る前に軽く深呼吸して気持ちを落ち着けた。

「……敏ちゃんが久し振りに顔出しに来るって聞いて、私、凄い嬉しかったんだよ。私は敏ちゃんに再会出来て嬉しかったけど……でも、敏ちゃんにとっては良くなかったのかもしれないね……。まさか敏ちゃんがあの空気を読めるなんて……。この2年間で、()しくも私も敏ちゃんも同じ方向へ向かったって事なのかな……。でも、敏ちゃんならまだ戻れるよ。何もこんな世界を知る必要なんてない。知らない方が良い世界ってのが、この世界にはあるんだから……。」

 アクセルに掛けた右足に力を込めようとする前に、もう一度バックミラーで敏行のインプレッサの姿を確認する。

「私はこの世界を知った代わりに、失ったものも沢山あった。それでも……それでも私はもう戻れない。犠牲を強いられる事が分かっていても、私はもうこの場所を去る事なんて出来やしない。……いや、もしかしたらこの場所に来た時点で、もう戻れなかったのかもしれない。それなら敏ちゃんは……。……きっとこの場所を知った敏ちゃんは、私と同じようにこれからも此処を訪れるようになるんだろうね……。……ううん。それでも私は足掻くよ。私には敏ちゃんに面と向かって悪態を()くなんて出来っこない。だからせめて……。」

 そして右足に力を込める。フロント部に搭載されたエンジンBP-ZEがそれに応えてパワーを紡ぎ出す。しかし、敏行のインプレッサに比べればロードスターのパワーは知れている。同じく加速体制に入ったインプレッサはすぐにその差を詰めて来る。だが、それでも美由は呟いた。

「……走りでは突き放すよ……。」

 周回コースの一角に位置する交差点が近付いて来る。美由は目にも止まらぬ鋭い操作で、ロードスターをコーナーへと突っ込ませる。

 

 

 ロードスターが一瞬ブレーキランプを灯したかと思うと一気にその車体を傾けてコーナーへと突入して行く。そのスピードは敏行にとって信じ難いほどの速さで、まるでそのまま加速体制を続けた状態でコーナーをクリアして行くかのようにさえ見えた。

「嘘……だろ……。」

 声を失いかけた中で辛うじてそう発する。確かにロードスターは非常にコンパクトで軽量なマシンである。だが、あの速さはそれだけでは決して実現出来るものではなかった。

「何なんだ……あれ……。本当に美由が運転してるのかッ!?」

 インプレッサがコーナーを曲がり終えた時には、ロードスターは遥か前方に位置していた。僅か1つコーナーを抜けただけでこれほどまでの差を付けられた事に、敏行は愕然としていた。コーナー1つとはいえ、美由の力量を推し量るには十分足るものだった。

「美由……君は天才だったんだな……。僅か2年で……いや、美由にとっては十分過ぎる時間だったんだろうな……。」

 いつしか敏は悔しそうにロードスターの後姿を見据えていた。

「どんな世界にだって、上には上が居る。僕なんかより速い走り屋が居たからって、全然驚くには値しない。だけど、こうまで見事に……しかも美由にやられるなんて……。この2年間、僕だってかなりの量を走り込んだ筈だし、走りのスキルは間違いなく向上してるんだ。だけど、美由はその2年間だけで僕を超えてしまったんだろうか……。」

 しかし敏行はそこまで考えてから思い直して、凛とした表情でもう一度ロードスターをその目で捉える。

「……いや、そんなにあっさり負けちゃいけない。例え今はそうだとしても、追い(すが)ってみせる……絶対に……。」

 底まで踏み付けている右足に、更に力を込める。EJ20はそのパワーで、ロードスターの姿を手繰り寄せる。

そうして2台の車は飽く事なく、幕張の街を駆け巡り続けて行った――。